教師の志望動機とは
某公立校の育休代替をしていたYさんが、毎日のように愚痴の電話を私にかけてきていた時、「東京は中高一括採用だから、中高別採用のK県を受けようと思う」という話をしてきたことがあった。理由は、「高校に行きたいので、K県なら受かれば高校に行けるから」だそうだ。
だが、そんな理由を面接で話して、志望動機として認められるはずはない。にもかかわらず、いつものごとくまるですでに合格したかのように自信たっぷりに話を続けるので、「受けるのはいいけど、その前にK県の教員になりたい理由は何なの?」と聞くと、
Y「・・・」
返答がない。
私「それ、ちゃんと言えなかったら無理だろ?」
Y「・・・」
私「自分にとって郷里でもないし、居住地でもない。そういうところを受けるのに、志望理由なしじゃ絶対無理だと思うけど」
Y「・・・理由は、ありますよ」
私「だから、理由は何?中高別採用だから受けましたなんて、まったく理由にならんよ?」
Y「・・・それは、個人情報なので」
ここまで聞いて、失礼ながらYさんは今年も受からないだろう、と確信した。一方的に相談だと電話してきておいて、言いたくないことは適当にごまかそうとしていることにイラっとしたこともあるが、それ以上に、言葉の使い方を知らない国語の先生に、合格の見込みはいくらなんでも見出だせない。
そもそも、志望理由を「個人情報」だと言っている時点で、論理的に破綻している。個人情報にはうるさい昨今。公立学校の面接では、民間企業以上に慎重に扱われるのが個人情報。面接の冒頭で必ず聞かれると言ってもいい志望理由が個人情報ならば、面接官は受験者に聞くことができない。と同時に、面接官は一体何を聞けばいいのだろうというレベルである。
個人情報という、響きの重そうな言葉を出せば逃げられる、相手を黙らせられると思い込んでいる段階で、語彙力に難ありと言わざるを得ない。そしてそんな乏しい語彙力で、高校生の前に立って国語を教える。いや、代替教員とはいえすでに高校生に国語を教えているという現実。よくよく考えれば恐ろしいことである。
では、志望動機とは何か。就活を始める多くの大学生が、まずこれを作り上げるのに苦労する。以前、Y先生にこれを聞いたとき、「生徒の喜ぶ顔が見たいから」だと、自信たっぷりに言っていたが、そんな答えを口にしたら、「それは、動機ですか?」と、面接官に怪訝な顔をされることは間違いないだろう(笑)
志望動機とは、自分の願望ではない。相手が求めているもの、すなわち企業、学校、教育委員会が求めている人材像にいかに合致しているか、をアピールするための入り口と捉えなければならないと、私は考えている。それを確たるものに仕上げるために、企業や教育目標などを調べ、知識として頭に入れるのである。
このようなことを無視して、誰かが喜ぶ顔が見たい、幸せにしてあげたいなどと美辞麗句を並べているうちは、志望動機とはなり得ない。すなわち、受からないということである。